東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)103号 判決
一 原告主張の請求原因第一、二、三項の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告の主張する審決取消事由の有無について判断する。
(一) 取消事由(一)について
1 原告は、第二引用例には熱機関がピストンの膨張する圧力によつて作動することが記載されているだけで、ピストンの作動により遊向歯車によつて主動回転軸を回転させる機構についての記載がないから、第一引用例記載のもののピストン作動方式に代えて第二引用例記載のもののピストン作動方式を採用しても本願発明のように膨張する力によつて作動するようにすることは容易ではない旨主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例に遊向歯車によつて主動回転軸を回転させる機構が示されていることが明らかである。そして、その遊向歯車が、これを被動軸に一定の向きに取付けると駆動部材が特定の方向へ移動する際、その動きに応動して特定方向に回転するとともに被動軸も特定方向に回転させるが、駆動部材が反対方向へ移動する際には、遊向歯車が反対方向に空転するのみで被動軸を回転させない機能をもつものであることは、弁論の全趣旨に徴し当事者に争いがないところである。そうだとすると、第一引用例記載のもののピストン作動方式に代えて、第二引用例記載のもののピストン作動方式を用いる場合、第一引用例記載のものの遊向歯車の取付方を逆向きに代えれば、遊向歯車によつて主動回転軸を所望のとおりに回転させることができることは、上記の遊向歯車の持つ機能にかんがみ、当業者において当然に容易に想到し得るということができる。したがつて、第二引用例に原告主張のような事項の記載がないことをもつて、この点に関する審決の説示を誤認というのは当らない。
2 さらに、第一引用例記載のように作動するピストンに代えて、第二引用例記載のように作動するピストンを採用するに当り、前記のように第一引用例記載のものの遊向歯車の取付方を逆向きにして用いるというだけでは、原告主張のように、ピストンの運動範囲が一定に定まらないことになることは、被告も認めて争わないところであるから、もし、このようにピストンの運動範囲を一定に制御することができないとすれば、原告主張のように、エンジンとしての機能を果すべくもないことは想像にがたくない。
しかしながら、このようにピストンの運動範囲が一定に定まらないことによつてもたらされる不都合を防ぐためには、被告主張のように、別途、慣用技術に基づき別の手段を講ずれば足りることであつて、それが不可能でないことは、現に本願発明においても、発明の要旨は前掲のとおり「ピストンが膨張する圧力によつて作動するとき遊向歯車を回転し、この場合、遊向歯車が主動回転軸を一方向に回転せしめるようにしたことを特徴とした直角圧力熱機関の構造」というだけであつて、ピストンの運動範囲を一定に制御する手段について、特に課題としていないこと並びに弁論の全趣旨から十分に肯認することができる。そうだとすると、本願発明は、ピストンの運動範囲を一定に制御する手段についてはこれを別途、慣用技術に基づく解決にゆだねているものと解するを相当とする。したがつて、本件において、原告主張のように遊向歯車の取付方を逆向きにした場合にはピストンの運動範囲が一定に定まらないとの理由で前記審決の認定を非難するのは当らない。
(二) 取消事由(二)について
原告は、本願発明において採用している膨張する圧力によつて主動回転軸を回転させる機構に基づき特段の作用効果を奏する旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、本願発明は、膨張する圧力によりピストンを作動させて主動回転軸を回転させることをその要旨とするだけであつて、エンジンである以上、これと密接不可分の関係にある圧縮工程、つまり、このように膨張する圧力により作動したピストンをさらに元の位置に復帰させることのために講ずべき技術手段については、これをその要旨としていないし、また、このための技術手段として周知のもののそれに比しても劣らぬものがすでに存在していることを認めるに足りる証拠がない。したがつて、本願発明が、膨張する圧力を直接利用してピストンを作動させるものであつても、そのことだけから、直ちに、膨張及び圧縮の工程を繰り返し行わなければならないエンジンにつき、周知のものと比較して熱効率の優劣を論ずることはできないし、また、本願発明が、ピストンの落下による重力作用を利用していないものであつても、そのことだけから、ピストン自体を軽量化し得るとの点はさておき、エンジン全体をより軽量にすることができるとまで即断できない。
なお、本願発明によれば、ピストンを水平あるいは逆さ向きに設計しても作動し得るエンジンにすることができる可能性のあることは、被告も認めて争わないところであるが、この程度の作用効果であるならば、周知のものである第二引用例記載のものにおいても、これを奏し得ることが明らかであるから、これをもつて特段の作用効果ということはできない。
三 以上の次第で、原告の主張は失当であつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却する。